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大分家庭裁判所 昭和34年(家)619号 審判

国籍 アメリカ合衆国アイダホ州 住所 同州

申立人 フエームス・マエダ(仮名)

国籍 住所 同じ

申立人 メリー・エー・マエダ(仮名)

本籍 住所 大分県別府市

事件本人 山中光子(仮名)

主文

申立人等が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一  本件申立の要旨は、アメリカ合衆国アイダホ州に居住し住所及び国籍を有する申立人等が、別府市に本籍及び住所を有する事件本人(未成年者)を法定の方式に従つて養子としたいから、これが許可の審判を求めるというにある。

二  およそ自己又は配偶者の直系卑属以外の未成年者であつて日本国に住所を有する者を法定の方式に従つて養子としようとする者がある場合には、養親となるべき者の国籍及び住所の如何にかかわらず、日本国の家庭裁判所は、常に右養子縁組の許否を決すべき権限を有するものと解すべきである。なんとなれば、未成年者を養子とするについての家庭裁判所の許可の審判の実質は、法定の方式に従つてなされる養子縁組についての児童福祉行政的な処分と解すべきであり、権利又は法律関係の存否についての争訟の裁判とは、同日に談ずることを得ないからである。従つて本件についても、事件本人の住所地を管轄する当裁判所が審判権を有することは論をまたない。(仮に日本国籍を有せず、また、日本国に住所を有しないものが養親となるべき養子縁組の許可の審判もまた、権利又は法律関係の存否についての争訟の裁判と同じく、いわゆる裁判権の存否の問題を生ずるとしても、事件本人(養子となるべき未成年者)が日本国民であつて日本国に住所を有する以上、事件本人を養子とすることの許否について、日本国の家庭裁判所が裁判権を有することは明白である。)

三  いわゆる未成年者養子縁組の許可の審判の内容は、該縁組を成立せしめることが未成年者の福祉に適合するかどうかを有権的に判断するに止り該縁組が法律上可能であるが、又当事者に縁組の意思ありや否やにつき有権的な判断を下すものではない。しかしながら、該縁組の法律的能否及び当事者の縁組の意思の存否も、また、該縁組が未成年者の福祉に適合するか否かの判断と密接な関係があるので、当裁判所は、前者についても判断を加へることとする。

四  本件記録によれば、申立人両名は、アメリカ合衆国アイダホ州に国籍を有し、かつ、同州○○○○○市に居住し且つ住所を有するものであつて夫婦であること、申立人フエームス・マエダは三八歳、同メリー・エー・マエダは二九歳であること、申立人両名は誠実な信仰と温厚な性質及び十分な資産収入を有する者であること、申立人両名間には子供が生れる可能性がないこと、申立人両名はその友人である在日宣教師ビー・エム・シエーソンに委任して養子となるべき者を探していたこと、他方、事件本人は、昭和二七年三月○日出生した当七歳の日本国民であり、昭和二八年二月○○日社会福祉法人○○園に収容され、爾来同園施設長小田福松及び前記シエーソン宣教師によつて愛育されて今日に至つたこと、シエーソン宣教師は事件本人を申立人等の養子とすることを望み、かつ、養子縁組が成立すれば事件本人を○○○○○市に帯同して帰国する決心であること、事件本人の親権代行者小田福松も本件養子縁組を望んで文書によりこれに同意していることを、いずれも認めることができる。してみると、本件養子縁組は事件本人の福祉のために望ましいことというべきである。

なお、法例第一九条によれば、養子縁組の要件は、各当事者につきその本国法によつて定めるべきである。よつて、まず申立人等が養親となる要件についてはアイダホ州法によるべきところ、同州法によれば、申立人等が事件本人の養親となるについて何らの障害をも見出し得ない。また、事件本人が養子となる要件については、日本国民法を適用すべきところこの点についても、また何らの障害も見出し得ない。そうして、申立人等及び事件本人の親権代行者によつて申立人等と事件本人との養子縁組の届出が、事件本人の本籍地の戸籍事務管掌者に対してなされた場合には、その届出は、法例第八条第二項本文により、もとより有効なものというべきである。すなわち、法律的にも、本件養子縁組は適法になされ得べきものである。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 新川吹雄)

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